ピンボール菊屋

「セリフにならないお芝居をどうするか、スコセッシのような演出ができたら」 衰えぬ創作意欲と挑戦心を西川美和監督が賞賛

access_time create folderガジェ通 映画

今年5月にされた第76 回カンヌ国際映画祭で初上映し、長いスタンディングオベーションで迎えられ広く賞賛されるや、本年度の賞レースにおいて早くも一二を争う注目作となっていた巨匠マーティン・スコセッシ監督の待望の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。主演は今やハリウッドを代表する名優であり、監督とは6度目のタッグとなるレオナルド・ディカプリオが務め、ディカプリオとは27年ぶり、スコセッシ監督作品では初共演となるロバート・デ・ニーロが脇を固める話題作が、ついに10月20日(金)に公開を迎えました。

3時間2 分という超大作だが、そこはマーティン・スコセッシ監督。最初から最後まで、事件の行方はもちろん、登場人物たちの言動や視線の1つまで、片時も目が離せない展開があなたを待ち受けます。

そんなスコセッシ監督の最新作を、同じく映画監督という立場だからこその視点で、西川美和監督(第59回カンヌ国際映画祭監督週間に正式出品された『ゆれる』や、日本アカデミー最優秀脚本賞受賞『ディア・ドクター』、『永い言い訳』『すばらしき世界』など)が語りました。

本作は、地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼って、アーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)がオクラホマのオセージの町へとやってきたところから展開。すぐにアーネストはアメリカ先住民オセージ族の女性、モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める…。というストーリー。

現役大学生約200 名を前に『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』について語った西川美和監督。本作で描かれる実際の事件について「私が不勉強だったということもありますが、全く知らないアメリカ史でした」といい、さらに、すでに2回鑑賞していることを明かし、「1回目は、その物語の設定をつかむのにカロリーを使いましたが、2回目は、俳優陣の演技の様々な表現を見られたり、スコセッシ監督のますます洗練された撮影方法にも注目しながら観ることができました」と、2度観たからこそ楽しむことができたポイントを解説。

映画ライターのよしひろまさみち氏も「音楽も素晴らしいですよね。音響の効果、サウンドデザインがとても素晴らしいのでIMAXで観た方がいいと思います」と劇場での映画体験を推し、西川監督も「劇場体験の一番のよさは音響だと思うので、ぜひ一度体感していただきたいですね」とそれに応えます。

続いて、スコセッシ監督が拘ったという本作のキャスティングについて「実はスコセッシ×デ・ニーロ、スコセッシ×ディカプリオという座組は今までもありましたが、この3人が1つの作品で揃うのは実は本作が初というのは意外でした」とよしひろ氏が話すと、主演ディカプリオと、デ・ニーロについて西川監督が「2人は俳優としてはタイプが違うと思っていて、デ・ニーロが役と距離を置いて、役柄と自分を同一化せずにアプローチする一方で、ディカプリオは、役に入り込むタイプではないかなと」と、監督ならではの視点で2 人の演じ方を分析した。それを受け、よしひろ氏は「以前、ディカプリオ本人をインタビューした時に、役が抜け切るのに時間がかかって大変という話をされました」と明かします。

本作は、米ジャーナリストであるデヴィット・グランのノンフィクションを原作としている。西川監督も、『すばらしき世界』が実在の人物をモデルにした1990年に発行された小説を元に脚本を手掛けたことから、脚色という目線でどう感じたかと聞かれると、「(『すばらしき世界』では)テーマが現在でも通用したので、原作の設定とは時代を変えて、現代に置き換えました。自分が監督をするためには、やはり物語や主人公の細部まで、自分の血や肉にしないとディレクションができない。ですので、私は原作に書かれていること含めて、可能な限りリサーチしました。スコセッシ監督のアプローチは想像もつきませんが、この原作は相当な厚さがあって、さらに原作と映画では視点も違うということなので構成が相当違うはずです。それを共同脚本とはいえ80歳になっても、自身で筆を取ってここまで精緻な物語に仕上げるのは驚異的な集中力と体力だと思います」と、巨匠のいまだ衰えぬ創作意欲とチャレンジ精神を絶賛。

また、本作で描かれるレオナルド・ディカプリオが演じるアーネストという男がかなりの“ダメ男”であることについて、西川監督は「ダメ男という次元を超えていましたね。すべての人間が根源的に持つ“愚かしさの罪”について、かなり深く書かれていて恐ろしかったです。1回目は、まだ笑えたんです。でも2回目は、その愚かさが、自分に返ってくるような気がして。巨大な力にそそのかされるまま、思考停止していくアーネストを笑えないなと思いました」と、本作でスコセッシ監督が描き、ディカプリオが演じた“アーネスト”というキャラクターの業について考察します

最後に西川監督は「(本作が描く事件について)アメリカという国の恥の歴史ですよね。そのテーマにこれだけのお金を投じて、ずっとトップを走り続けてきたスコセッシ監督に撮らせるのだから、アメリカの映画界にはまだまだ未来があるなと思いました。映画は、本当に見どころだらけです。表現がオーバーフローすることなく、落ち着いてドラマや演技を観ることができる作品です。何気ない場面での俳優たちの表情や1対1の芝居も素晴らしく、口にする言葉とは裏腹の心理が、実に的確に、ヒリヒリと伝わってくる演技が見られます。セリフにならないところの演技をどう演出するかは本当に難しいです。あんな演出ができたら夢のようだと思いました」と、同じ映画監督ならではの視点での見どころを語り、8080歳を超えてもなお全世界の映画界のトップを走り続ける巨匠マーティン・スコセッシを讃えました。

決して繰り返してはならない歴史的悲劇をかつてない壮大なスケールで描いたスコセッシ監督最新作。ぜひスクリーンで堪能して。

Apple Original Films 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
画像提供 Apple

▼ガジェット通信が送るミニゲームシリーズ!
スキマ時間にどうぞ!
access_time create folderガジェ通 映画

藤本エリ

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト:

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。